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こんなに美味いものを食べたのは初めてだ、と俺は思った。
目の前にはコース料理における魚のメイン。ソテーされた白身を一口頬張ると、バターの香りが全身を駆け巡って、鼻から抜ける。
その前に出て来た前菜もスープも最高だった。前菜はサラダだった。俺からすればサラダなんて葉っぱの盛り合わせぐらいにしか思っていなかったが、その認識は今日変わったと言っても良い。
「次は――」
ウエイトレスが、料理を運び説明をするが全く解らなかった。
俺が解るとしたら肉が牛なのか、豚なのか、鳥なのか、それぐらいである。
ただ、そんな俺でも、こんな素晴らしい料理の前で帽子を被りながら食事をするのは申し訳なく思った。だが、これは仕様みたいなものだ。
片田舎にあるログハウスのレストラン。不便なところにあるが、シェフの腕が良いので口コミで評判は広がり、客入りは上々だ。
店内はテーブル席が三つのみ。奥にシェフのいるキッチンがあるが、席からは見えない。
予約は必須ではないが、ランチもディナーも大体満席だ。俺も今日は予約して来た。
十数分後、俺は食後のコーヒーを楽しんでいた。
これもこだわりを持って淹れられたものだろう。嫌な苦味がなく、香り高い。
俺がいつも飲んでいるものとは天地の差だ。
それを飲みながら、本日のコースを振り返っていた。
幸福、いや口福だった。
「ちょっと良いかな?」
「はい?」
「素晴らしい料理だった。是非ともシェフに挨拶をしたいんだが」
コーヒーを飲み終えた俺はウエイトレスを呼びつけ、そう言った。
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
このようなことに慣れているのだろう。ウエイトレスは丁寧に礼をし、奥のキッチンへと入って行った。
反対に言った俺の方は慣れていないので、少し緊張をしている。恥かしい限りだ。
狭い店内だ。シェフはすぐに出て来た。俺も席を立つ。
「どうも、私が――」
シェフが俺の前に立った時だ。さすがに失礼だろう、と思い、俺は帽子を取る。
そして――胸ポケットに隠していた拳銃を抜き、躊躇無く引き金を三回引いた。
狭い店内には破裂音の残響。そして、鉛玉によって倒れるシェフ。
そんな中、俺は硝煙の香りが先程までのコーヒーの香りを消してしまったので残念に思っていた。
「最高だったよ、シェフ」
俺は、聞こえはしない賞賛の言葉を彼に送った。
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