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「兄貴、どうですか?」 「食うから、少し待て――!! う、美味いな!!」 「でしょう?」 そのパスタは、そこらへんレストランより断然美味かった。 驚きの声を上げた俺に、トムは得意気な表情を見せる。 朝から仕事が続き、俺はトムと一緒に行動していた。彼は俺が一番可愛がっている部下でもある。 昼過ぎに一段落し、落ち着くと腹が減った。どこでもいいから店に入ろうかと思ったが、トムが、 「近くに俺の家があるから来てくださいよ。飯も振る舞いますよ!!」 そんなことを言ったことから、今に至る。 「仕事もこれぐらい上出来だったなら良いのにな」 「手厳しいっすよ、兄貴」 「こんな仕事辞めて店でも出したらどうだ?」 俺は冗談半分で言った。トムは笑うだろう、と思っていたが彼は音のしない苦笑いを浮かべた。 「どうした?」 「……兄貴には世話になってるのに、こんなこと言うのは申し訳ないんですけど」 「何だ? はっきり言え」 「俺、この仕事に向いてないのかな? って、時々思うんです」 彼の言葉が終わると沈黙が場を支配する。 「コーヒーあるか?」 俺はそう言って、トムにコーヒーを出させた。彼が淹れてくれたそれは味にこだわりを感じ、美味かった。それを飲み終えると、俺は話し出した。 「確かに、お前はどこかの片田舎でレストランをやってる方が似合うだろうな。幸せにもなれるだろう」 少し冗談染みたように俺は語る。トムは黙って聞いていた。 「だが、俺達の稼業――マフィアってのは簡単には辞められない」 そう俺達はマフィアだ。この辺を縄張りとしている。 この仕事は簡単には辞められない。どんな下っ端でも、その組織の秘密を知っているからだ。 黙って姿を消す、そんなことをした者には制裁が待っている。 「もし本当に辞めたくなったら相談しろ。勝手な行動は絶対にするな。この仕事が辛く感じ、それが限界に達しても、だ」 「解ったよ、兄貴」 「お前が勝手なことしたら、俺の責任を取ることになるんだ。仕事を増やすなよ」 俺は笑って、そう言った。ブラックジョークだが、場を和ますには丁度良い。 「そうだね、兄貴には世話になっているし迷惑もかけてる。更に仕事まで増やしたら、洒落にならねぇや」 トムのその言葉を二人して笑っていた。 コーヒーの香りが心地良く、太陽の陽が暖かい穏やかな午後だった。
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