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僕は身に覚えの無い森の中を歩いていた。 樹海、と表現した方が正しいのかもしれない。それほどまでに、鬱蒼としており、不気味なほどに静かである。 薄暗く、肌寒いその樹海を僕は進む。何処へ向かっているのは僕自身も解らない。ただ、立ち止まっていると不安は恐怖へと変わり、木々に食い尽くされてしまいそうな――そんなことを心の何処かで思っているのだろう。だから、逃げ出すように足を動かしている。 歩くこと数分。人影が見えた。初めて出会えた人に、進む足も自然と早まる。 そこには大木を背もたれにしている見知らぬ老人がいた。 古臭いスーツにハットを深く被り、杖を持っている。近くまで来たが、彼の背丈は僕よりも小さいので顔は見えない。 「どうした?」 「迷ったみたいで」 僕が声をかける前に、老人が尋ねてきた。それに対して素直に答える。 「道に? 人生に?」 老人は口元を吊り上げ笑いながら言った。 馬鹿にされているのか、と思い、少し苛立ちを感じながらも「道に」と答えた。 「真っ直ぐ」 未だに笑っている老人を不気味に感じ、僕は逃げるように真っ直ぐ歩き始めた。 更に数分後、疲れを感じ始めた時に見覚えのある少年がいた。見覚えがある、というのはその少年が被っていたキャップだ。ボロボロになった野球帽。それは僕も幼少期に持っていたものである。 「どうしたの?」 「ちょっと疲れて」 その体力の無さに自嘲気味に笑って言うと、 「歩くことに? 生きることに?」 その少年はケラケラ笑ってそう言った。 その言葉が馬鹿にされたように聞こえ、腹が立った。 声を荒げるのも大人気ないように思い、無視して歩き出す。 後方から「真っ直ぐ」という声が聞こえたが、それすら無視して歩き続ける。 更に数分後、僕は疲弊しきって座り込んだ。足も痛いし、喉も渇いた。変わらない風景に体力も気力も尽きている。 すると、反対から歩いてくる人物がおり、僕の前で立ち止まった。 「どうしたの?」 「えっ――」 声をかけられ答えようとしたが、顔を上げ視界に捉えた人物に驚き、続く声を飲み込んだ。 そこに立っていたのは『僕』だった。声が出ない僕に『僕』が言う。 「休んでるの? 立ち止まってるの?」 『僕』は僕を見下ろすように尋ねるが、状況の理解出来ない僕は答えることができない。 そんな僕に『僕』は微笑みながら言った。 「また歩き始めてね」
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