序章

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 クロア・フルートは崩れた建物の壁に寄りかかりながら、銃撃で受けた怪我を止血するために、自分の下着から即興で作った包帯を巻いていた。  この傷の程度では、布を巻くだけでは、止血することは到底不可能であろうとわかっていた。だが、何もしないよりは気分的に落ち着くというのと、少しぐらいはまともな状態になってくれるだろうという希望を込めて巻いていた。  応急処置で使おうと持って来ていた止血剤を、腕などの他の部位や仲間の治療に使って底をついていたため、このような処置をするしかなかった。  それになぜか、軍平時代に覚えたはずの、初歩的な治療系の魔術を忘れてしまっていたのが後悔の種だ。なぜ、あんな単純な魔術でさえ忘れてしまったのだろうか。とても不思議だ。それに、なんで俺はこんなところにいたのかという疑問もあった。  先ほどまでクロアは、仲間や部下の兵士とともに敵軍と戦っていたはず。負傷しながらも、所持していた銃や、リロードする時間のない時は魔術を輪唱して戦い、全滅させたのは覚えている。その時の場所はもっと建物の少ない、広場のような場所だったはずだ。  そこから何故、このようなゴチャゴチャと瓦礫の多い、おそらく住宅街だったのであろう場所へ移動しているのだろう。  まわりをどんなに見渡しても、目に入る景色は爆弾か何かによって打ち砕かれた建物とその瓦礫だけで、今はとても人が住めるようなところでは到底ない。  場合によっては、その中に下敷きとなっている人も大勢いるだろう。
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