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『それはなりません、シグマ』
「っ!?」
情斬を引き抜き、戦闘態勢に入ろうとした俺を引き留める声。
優しく可憐な声に振り返ると、其処には桜の雨の中佇む、サクラ姫の姿があった。
「サクラ……姫」
『はい、シグマ。最近ようやっと桜と和解できました。肉体を失ったわたくしに力を貸してくれています』
「…………肉体を、失くされたのですね」
『ええ、正真正銘桜の妖精です』
ふふ、と口元に手を添えて笑う姿は記憶の中のサクラ姫そのもので。
巫女装束に身を包んだ姫様をただ見つめる事しか出来ない。
『貴方が来た時は驚きました。せっかく傷付けないようにと時期を見計らっていたのに、もう』
「…………申し訳ありません」
姫様に教わった様に膝を付き、頭を垂れる。
『めっ!……ですよ?』
腰に両手を添え、ずいと俺の顔を覗き込む。
緊迫した場に似合わぬ叱り方がサクラ姫らしい。
「申し訳ありません、サクラ姫」
『分かってくれれば良いのです。さてと、どうしましょう?』
こてんと可愛らしく首を傾ぐサクラ姫の的外れさと言うのか、放たれるマイナスイオンに場が落ち着きを取り戻していく。
「姫様のお好きなようになさって下さい」
『では、こうしましょう。わたくしは露ほども怒ってませんから、仲直りしましょう?』
満面の笑みで小指を差し出し、玉座で呆然と座り込む姫に問い掛ける。
全く、サクラ姫には敵わない。
「えっ、あのっ」
どうすればいいのか慌てふためく姫にイラつきは募れど、サクラ姫に口で勝った試しはない。
言いたい事は山ほどあるが、諦める他ないかと、言葉は胸に止め、深く嘆息した。
『おっ、姫様じゃねーのよ』
其処へフラリと姿を現したのは雁金。どうやら暴れるより此方の方が面白いと判断した様だ。
退屈さえしなければいい。
これが雁金のポリシーとも言うべき行動理念だ。巻き込まれる身にもなって欲しいが。
『こんにちは、雁金。お久しぶりです』
『おー。姫さん今桜の精なワケ?』
『半分当たりですね。桜の精とお友だちになったのです』
誇らしげに答えて、サクラ姫は胸を張った。わざとらしく大仰に拍手を送った雁金が意味有りげな視線を俺に送る。
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