過去へと還るも似て非なる

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「……雁金」 『くく、鈍ったなぁ、シグマ』 「…………まさか、サクラ姫の気配にも気付けなくなってるとはな」 僅かな魔力の反応でさえ気付いていたあの頃に比べると、全体的な能力値がまるで下がっている。 溜息しか出てこない。これで勇者を名乗るなんて呆れてものも言えんわな。 『さあ、そうと決まればお祭りです!』 「…………はっ?」 異変に気付きばっと窓の外を見れば、視界を覆い尽くさんばかりの桜。 「サクラ姫……まさか」 『相乗効果ですよー』 「……はぁ。サクラ姫の命とあらば」 情斬と共に外へ出、渋々穢れ切った空気を浄化する。思えば桜を狂わせたのも此れが原因だったのやも知れん。 「君はなにを……」 付いてきたイケメンを鋭く睨めつけ、首元に鋒(きっさき)を当て下がる様訴える。 「邪魔だ、退いてろ」 「……っ」 俺も昔こんなだったかという考えが一瞬頭を掠めるが、すぐに違うと否定した。 少なくとも俺には、素直に驚き狼狽えるだけの子供っぽさはなかった。 「『浄』」 空気が軽くなっていき、曇天が晴天に変わる。 枯れていた草木はみるみる成長し、鮮やかな花々が咲き誇る。 かつての姿を取り戻した様子に満足そうに頷き、サクラ姫は国中に響く鈴の音を響かせる。 『今宵は宴です!何もかも忘れて遊びましょう?ただいま帰りました』 「お帰りなさいませ、姫」 姫の傍に居た臣下の一人が深く頭を垂れる。 (この声……どこかで……) 顎に手を当て思案する俺を、やはり懐かしい声が呼び掛けた。漸く至った一名の名を呼んでみる。 「ラッセルか!」 「シグ。久しいな」 ラッセル・バーン。サクラ姫付きの従者で、暗殺術に長けた青年だ。雇われ傭兵上がりながら、実力は侮れない。 「お前……さっき」 「勇者と殺り合える機会はそうそうないからな」 「俺はもう勇者を退いた身だ」 「でも実力はそう衰えていない。そうだろう?」 刀を交えんと地を蹴った俺とラッセルの間にサクラ姫が飛び込む。 「なっ、サクラ姫!」 「くっ」 ――キィン! 咄嗟に姫を抱き上げ、俺に背を向ける形で滑り込んで来たラッセルを受け止める。 「サクラ姫っ!まったく貴女という人は……!」 背の刀をそのままに痴話喧嘩を始める二人に嘆息する。
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