過去へと還るも似て非なる

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『ラッセルが構わないのがいけないのですよ!せっかく会えたのに……』 「それは……その、申し訳ありません、姫」 『悪いと思うなら、抱きしめてください!』 「しかし、姫……!」 『今は姫ではありません!敬語、辞めないと怒っちゃいますよ?』 そろそろ周りの視線を集め始めた為、このままでは顔が割れるなと力を貸すことにした。 「サクラ姫」 『シグマもですよ!』 「聞こえてる。今から人気のない場所を作っから、ちょっと待ってろ」 「『静城』」 城がそびえ立つ。俺が許可した音のみ発する無音の城。 昔はよく昼寝するのに使っていたのを憶えている。俺が許可した人間以外は入る事も適わないから。 「姫、耳貸せ」 『何ですか』 「……あのな――」 『それは良いですね、気に入りました。行きますよ、ラッセル』 「姫っ!!」 腕をするりと滑り込ませ、桜の嵐を吹かせ一気に舞い上がり、城の最上階にある柵に体を預け、叫ぶ。 『わたくしはこの人と結婚します!!』 それはもう、今までにないほど、美しく薫る笑顔で。 隣で慌てていたラッセルが、表情を凍りつかせた。 「な……っ!」 『ヒューゥ』 雁金の冷やかす様な口笛を皮切りに、静まり返っていた民がお祭りモードになる。 ラッセルもこれで後には引けない。 尤も奴にしてみれば、背中をドつかれて出た様なもので、迷惑極まりない事態だろうが。 両想いと云う点に置いては、それも良いのかも知れない。 「アイツは素直じゃないからな」 『堅物だしなァ』 サクラ姫に手を振り、恨めしげなラッセルを笑ってやる。 群集からかなり離れた所まで移動し、変化して欲しい旨を目で訴える。 「……雁金、」 行くぞ、と云う言葉は前方から堂々と現れた男によって阻まれた。 「待て!!」 「…………何だ」 鋭く睨めつけると、じゃりと気圧され後ずさった。 気持ちから負ける程度で何が出来ると言うのか。 「お姫様に謝れ」 「俺に命令出来るのはこの世でただ一人だけだ」 サクラ姫はその例外だが、彼女を除けば俺を顎で使えるのはセイラ姫ただお一人のみ。 他は死んでも聞かない。まあ、俺を殺せる人間なぞそう居たものではないだろうが。 少なくともイケメンは相手にもならない。実力云々を抜かしても、俺を負かすのは無理。
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