過去へと還るも似て非なる

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『ヒューゥ』 「茶化すな。消し炭にすんぞ」 へーへーと躯を折り、雁金が昼寝を始める。上下する度に視界が揺さぶられる。 「……君は、本当に勇者なのか?」 「………………魔王だ、と言ったらどうする?」 暗い笑みをたたえて、しかし目だけは笑わずに、低く声を作って問い掛ける。 「君が、この国を滅ぼそうとしているのなら……僕は……」 勇者としての自分と、それまでの自分の間で揺れ動く自分を持て余している……と、そんな所だろう。 その答えを俺に見出そうとするのは甚だ疑問だが。図々しいにも程があるだろ。 「……この国はもう襲わない。サクラ姫の物だからな」 「…………お姫様は、どうなる?」 「……………………」 普通は死刑だが、サクラ姫なら赦してしまうだろう。そういうお方だから。 「んなことより、自分の心配しとけよ」 「自分の心配……?」 「どう転がってもお前と俺は殺し合うことになる。俺はお前の言うオヒメサマに牙を剥いたからな」 恐らくあの姫の父親が俺を逃がさないだろう。あまつさえ俺は手に入れたい国の勇者だしな。 「起きろ、雁金」 『あいよォ、マスター』 「まず森へ行く。……暫くは修行だな」 「待てっ!」 「待てと言われて待つ分けねぇだろ馬鹿か。その空っぽの頭で俺をどうやって殺すかせいぜい考えろ」 吐き捨てた言葉に過剰な反応を示し、殺しへの葛藤を見せるイケメンに無性に腹が立つ。 ……前言撤回。コイツは、俺によく似てる。 殺したいほどに。
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