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「きっと分かり合える。ちゃんと話せば……!」
「綺麗事だな」
はなっから全く聞く気のない俺にイケメンが食い下がる。
「君だって僕と同じ――」
「人間話せば分かり合える?では何故人間は争う?何故このキルシュバウムは葬り去られた?サクラ姫から肉体を奪ったのは誰だ?本当の悪はお前の言う『お姫様』じゃないのか?無知だけで済まされる話なのか?この国の民だって――」
「やめろ!!」
肩で息をするイケメンを一瞥し、大きく溜め息を吐いた俺を雁金が急かす。
『契約だ、シグマ。今度こそは、』
「……ああ」
情斬で雁金を斬りつけた。骨にヒビが入り、一瞬の内に伝染し、骨の山と化す。
「なっ」
イケメンが驚愕に目を見開いた。瞬く間に元の姿へ戻った雁金が喉を鳴らし、空へ舞い上がる。
『シグマァ』
「ああ」
その背に飛び乗り、片膝を立て、もう片方を宙へ投げ出す。吹き上げる風が足を揺らした。
「まだ終わってない!!」
「何も始まってない」
冷たく言い放たれた俺の言葉にイケメンがたじろいだ。
それが答えと背を投げ、星の瞬く空を見上げる。一面に黒く、果てしなく広く、澄んでいる。
――綺麗だろ、シグマ!
いつかの想い出が脳裏を過ぎり、感傷に浸りかけた自分に舌打つ。
「…………………………うるせぇよ、馬鹿デルタ」
呟いた言葉は、雁金の羽ばたきが攫(さら)って行く。
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