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『てめぇ……灰にしてやる』
『出来るものなら』
地べたに這いつくばって、仲間の屍に囲まれながら、血の海に躯を沈めながら、吐き捨てる。
『お前の計画……俺が潰した。アイツらの穢れは、全部俺が背負う』
『っまさか』
ハッと俺を見下げた神を睨めつけ、ざまあみろと笑ってやった。少しは報われただろうか。
いや、全ては見抜けなかった俺の落ち度だ。俺さえしっかりしていれば、誰も…………。
『お前が何度来ようと俺は変わらない。変わらずにお前を――カハッ』
『黙りなさい負け犬が。人間界に堕ちるがいい。根も張れぬ下界へ』
上から踏み付けられ、肺から強制的に空気が追い出される。息を吸う度に、胸が軋む。
『無駄、だ』
神器としての能力を失いつつあるそれを自らに突き立て吸収する。
これでもう、手は出せまい。
『無駄なことを』
『無駄かどうかは、未来が決めることだ。神さえも知らぬ……ってな』
急降下し、加速する肉体はボロボロで、失笑とも自嘲とも取れる微妙な笑いを口元にたたえた。
『悪い…………結局、俺は…………』
勝ち誇る神の視線を一心に受けながら、やるせなさを持て余し拳を握り締めた。
最早痛みを感じることすらできない。
こんなにも、胸は痛むのに。
『――マァ』
『お…………グ……?』
「…………………………………護れなかった」
ぽつりと呟いた言葉は、誰の耳に届くこともない。不審に覗き込んでくる雁金を押し退け、重い頭を持ち上げた。
『魘(うな)されてたけど大丈夫かァ?』
「……ああ。着いたか」
手で顔を覆う振りをして、塩辛い水を拭い取る。
この夢を見るといつもそうだ。心が掻き乱される。
『おうよォ。んじゃァ先行ってるぜェ』
「一週間顔を見せない時は見に来てくれ」
『りょうかァい』
雁金は何かを察してか、それ以上は触れず、空の彼方へ飛び去って行った。
「……………………」
深く息を吐いて、空を仰いだ。腹を押さえつける様にして右腕を置き、もう片方で空を遮る。
ずるずると滑り下ろした左手の隙間から、向こうと変わらない青空が覗く。
「息子からの下克上だ、クソ親父」
シグマ=ギリシア。
それが勇者として生きる前の俺だった。
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