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記憶の波に呑まれかけた意識にハッとして、反射で左腕が跳ねる。
頭を振って、くしゃりと髪を乱す。その手で情斬を引き抜き、森の中へと足を踏み入れた。
視界の端に映る看板には、『永樹の森』の文字。
永樹は神木の一種で、森の守護神の様なものだ。
(一番穢れが酷いのは……)
「……あそこか」
一ヶ所だけ異常に空気が重い。永樹を軸として半径数百メートルと言った所か。
此処から永樹まではザッと見て一キロは軽い。修行も兼ねて歩くのがいいだろう。
穢れに当てられてか闇落ちした魔物も多い様だ。一応情斬を抜いておく。
先ずは感覚を取り戻しておきたいからな。
進むこと数分、魔物の気配が濃くなってきた。自ら襲ってくるものは居ないが、闇堕ちした以上どうにかしなければならない。
一番不味いのは永樹が穢れに冒されることだ。アレが堕ちると芋ずる式で森が魔族の巣窟となる。
もうアレは懲り懲りだ。
参考までに言っとくが、魔物と言っても一括りに悪って訳じゃない。
人間が生み出す穢れに当てられて闇に堕ちた魔法科生物つまり魔物が人やらにあだなす存在となる。
それを浄化しマナに還すのが俺のかつての役目だった。
まあ、前世(むかし)の話だ。尤も、それは神にあだなした者に与えられた罰だったがな。
「『浄』」
奥に進むにつれ魔物の凶暴さが増してくる。
この森の広さからして片っ端から真面目に倒していたのではキリがないと、浄化効果をかけた。
情斬が持つ固有スキルの一つで、何故かジョウと読む漢字一文字総(すべ)てがスキルとして登録されている。
まあ、それなりに便利だ。
「グルオォォオオ」
二メートル程の熊が襲いかかって来る。爪が振り下ろされる直前に横に飛び、情斬を横に薙(な)ぐ。
「ガァアっ」
短い断末魔を上げて熊が倒れた。数瞬して弾け、白い光が舞う。
情斬の浄化光だ。ついでに空気を浄化する効果もある。幾分か綺麗になった空気は軽く、心地いい。
「っと、」
飛び出して来たエントの枝もとい腕を情斬を背に受け止める。
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