過去へと還るも似て非なる

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男がナイフをチラつかせながら店長を睨み付けると、店長は木高さんを守るべく体を前に出す。 俺はと言えば事態の割には冷静を保っており、どう挑発してやろうかと思考を巡らせていた。 「おい、腰抜け野郎」 酷く月並みな台詞ではあるが、男には効果てきめんだった。顔を赤くして怒鳴り散らすと、滅茶苦茶にナイフを振り回しながら向かってくる。 木高さんの悲鳴が耳を劈いた。女子の悲鳴は頭に響くから嫌いだ。それがどんな色のそれだったとしても。 「……殺す。ぶっ殺す。殺す殺すころすころすコロス!!」 呪文のようにぶつぶつと唱え、見事行動に踏み切った男を嘲笑うかの様にして、俺は飲み物の陳列棚を開き、男を突っ込ませた。 「ぐべっ?!」 何とも間抜けな声を上げてペットボトルを突き刺した男は手を穿つ痛みに堪えながらも俺を鋭く睨む。 何とか俺を殺さないと気が済まないと見える。が、どんなに引っ張ってもナイフが抜けない。 ハサミでも抜けにくいのに、刃渡り数センチのナイフがそう簡単に抜ける訳が無い。それ以前に男は長身痩躯で見るからに非力だ。 「腰が引けてる――ぞっ!」 左足で扉を蹴り飛ばし男を挟めると、男は低く呻いてその場に転 がった。 念の為にナイフが突き刺さったペットボトルを遠くに投げ、男の腕を捻り上げる。 「痛い痛い痛いよぉお!!!」 武器が無くなると、男は急に泣き喚き出した。喧(やかま)しい。 肩の関節の一つでも外してやろうかと思ったが、うっかり骨折させては後々面倒なので上に乗ることにした。身体能力ですらあの日で止まっている。 「うぐっ」 「人の人生邪魔しやがってこの屑が。消し炭にすんぞ」 じたばたと暴れ抵抗するので耳元で優しく囁いてやると、男はピタリと抵抗を止めた。 そこからはとんとん拍子で事が進んで行き、店長が事情聴取は自分が受けるからと俺と木高さんを解放した。
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