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『魔力過多……ですね』
くらくらと頭が回る。目がチカチカして、立ってられない。
"僕"はお姫様を見上げて、聞きなれない言葉に首をかしげた。
『ま、りょく……かた?』
『勇者か賊か、見極めさせて頂きましょう』
目の前が真っ暗になって、床に倒れ込む。
ああ、そうか。此処は現実であってそうでない、どこか別の――……。
そこまで考えたところで、僕はとうとう気を失った。
『お早うございます。気分はいかがですか?』
大きなおりの中、冷たい石の上で目を覚ます。
お姫様が僕を見下ろしてニヤリと腹黒そうな笑みを浮かべた。
『……こ、こは』
『どうやら魔族ではないようですね』
安心しました。お姫様は大きなおのを振りかざして、石の床を叩く。
『しかし……』
『あの、』
『マナーがなってない!これでは先が思いやられます。これから暫くの間みっちり扱いて差し上げますから、覚悟なさって下さいね?』
正に花の如き美しい笑みとは相反する、鋭く光る獲物を狙う獣の瞳。
全てはこの時、始まったのだった。
「――…………夢か」
懐かしい夢を見た。幻でも現(うつつ)でも、姫様は凛として美しく、何物をも惹き付けて止まない。
「セイラ姫……」
フロル・ディ・セレシェイラ。フローディア王国第一皇女にして、王国最強。
大斧を振り回し真っ白いローブを深紅に染め上げるその戦いぶりから付けられた名が『戦姫』。
時間にして凡そ一ヶ月、俺を檻に半ば監禁しマナーを叩き込んだ人だ。
……今思い出しても恐ろしい。
背筋を駆け抜ける悪寒に身を震わせる。
"誰も居ない"静けさだけが在る檻を唯一それとして機能させる格子を見つめ、嘆息する。
(……にしても、)
警備の一人も付けない杜撰さ――一国の皇女が付くのも問題だが――に呆れを通り越してある意味尊敬する。
後数時間もすれば此処の空気に慣れてひと振りでこの一角ごと破壊出来る。
「………………雁金」
右腕で光を遮り、毒素を抜くように脱力しながら、ソイツを呼んだ。
『よォ、マスタァ』
例えるなら寺の銅鐸の様な、重く骨に響く低音が牢屋に響く。
「夜明けに出る。契約するぞ」
『りょーかい』
ニヤリと笑う雁金は酷く不気味だ。全身黒装束なのも手伝って、白髪白眼が良く目に付く。
歪む瞳には何も映らず、気味が悪い。
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