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玉座へ続く広いベルベットを踏み付け、向かい来る王国兵を蹴散らし突き進む。
「魔族だ!!」
「姫様に近付けるな!!」
この慌てよう。仮にも国を守る兵士ともあろう者が情けない。
「……く」
心底可笑しくて笑えて来る。それを挑発と受け取って、頭に血が上り単調な攻撃になった兵士達を、赤子の手を捻る様に捩(ね)じ伏せる。
「……くッ」
バタバタと為す術もなく倒れ行く兵士を見つめ、その意志の弱さに辟易した。
ある者は恐れを、ある者は焦りを、またある者は諦めを各々(おのおの)瞳に浮かべている。
「……………………」
こういう時にしてくれる者も居なければ、自ら立ち上がる力も無い。意思で負けたら凡て終わりだと言うに。
とうとう俺が手を下さなくても滅びそうな気がしてきた。
倒れた兵士で徐々に埋め尽くされて行く廊下を一瞥し、嘆息する。
「姫をお守りするのだぁ!!」
念話でやって来た援軍を軽くいなし、床と対面させる。
奮い立たせようとしても、俺との実力差に絶望し、倒れた兵士は一人とて立ち上がりはしない。
そう、俺とヤツらの決定的な違い。
それは。
一つ、本当の死の恐怖を知っている事。
一つ、生き抜こうとする強い意志を持っている事。
一つ、自らの弱さを認めている事。
一つ、誰にも譲れない何かを持っている事。
こんな物か。されどこんな物だ。
ガキ一匹にしてやられる軟弱者の集団に、国を護る力が有ると思えるか?
冗談。精々護れて其処らを歩いてるありんこ程度だ。
「この国は"何時から"ある?」
不意に投げ掛けた問いに、兵士達は動きを止めた。
「国王は何をしてくれた?お前達は何の為に戦う?その闘志は何処から来る?あの姫に護る価値はあるか?どうして俺をすぐに殺さなかった?何故お前達は兵士になった!」
矢継ぎ早に紡ぎ出された全ての言葉が、兵士達の押し込めていた疑問が一気に溢れ出す。
「姫をお守りして何がある?」
「俺達は国がため命をかけ……」
「…………なぁ、戦うって、何だろうな」
一人が核心を突いたことで、兵士達はその場に座り語り始める。
まずは外堀から崩す為、俺は一つだけヒントをやる事にした。
「"――の花言葉は"?」
「花言葉…………?」
「…………"安らぎ"」
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