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何故このフローディア王国には歴史が無いのか。
それは至極単純な理由であった事を、俺は今漸く思い出した所だった。
結論から言えば、フローディア王国は国ではない。自分でそうだと名乗っているだけだ。
というのも、この国は元々姫様のご友人が統治していた国で、それを無理矢理奪い居座っている敵こそフローディア一族であると、姫だけが知らない。
ほんの十六の娘には、この事の重大さが理解出来ない。
そろそろ雁金に飽きが来る頃だろう。さっさと片を付けて姫様に会いに行くか。
決まるが早いか、情斬を肩に担いだ体勢で、もう目と鼻の先にある金やらで豪華に装飾された扉を蹴り開けた。
「何者ですか!」
「かつて勇者だった者」
同盟国との間で結ばれた約束事の中に、勇者には白いローブを与えると云う物がある。
少し考えれば分かる事だろうが、此処も同盟国の一つだった。尤も、今となっては敵国として扱われているが。
これをあの方が知ればどれだけ悲しむか知れたもんじゃない。下手したら自害するなんて言い兼ねない。
「教えてやろうか?この国が何なのか」
「この国が……何なのか?」
「全て知って死んだ方が…………マシだろ?」
どかりと腰を下ろし、姫を一線に見詰めていると、イケメンが俺に話し掛けて来た。
「君は……お姫様を殺す気なのか?!」
「何故そう思う」
「だって今……」
イケメンは予想以上にお子様らしい。昔の自分を見ている様で腹が立つ。
「やはり魔族だったのか!!殺せ!!!!」
臣下の一人が聖水を持ち、腕を横に振り俺に浴びせ掛けた。
――パシャン
「……浄」
苛立ちをそのままに言葉と共に情斬で肩を叩くと、濡れていた髪やらローブやらが乾く。
「……やはりな。下劣な魔族は時をも狂わすか」
確かに、時を操る魔族は居ることには居る。
但しそれは闇堕ちした高位の魔物――魔法科生物の略称――で平生の魔物がこうして人間界に来る事は決してない。
この世界で魔物として知られているのは全て闇堕ちした魔物だ。
魔物と悪とをイコールで結び付け、全てを排除せんと動くのは短絡的な馬鹿のする事だ。
俺はそれを、魔王から教えられた。
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