第4章 トンネルの中のくらげ -2-

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  〇 空凪駅を走るローカル線は、三両編成の単線だ。南西の方にあるターミナルから直通で来る快速列車は空調完備の現代的な内装をしているけど、うちみたいな小さな町には止まらない。 一方で、俺たちの目指す海辺の町を終点に走る鈍行列車は、一世代どころじゃなく古い車両が未だに現役を貫いている。 擦れた後から何度もニス塗りされた木製の床板をぎしぎしと踏みしめて、ほとんど人気の無い車内へと踏み入る。駅員さんの笛の音が鋭く響いて、空気が抜けるような独特の駆動音と共に焦げ茶色の扉が閉まる。 「しっかしまぁ、何度乗っても時代錯誤な電車だよな……」 天井には三台の扇風機がぐるぐると首を振って、劣化した木の埃臭い匂いが漂う車内の空気を、ぼんやりと間抜けな顔で掻き混ぜている。 もちろん窓は全開で、山中を走る際に吹き込んだのだろう、座席には乗客の代わりにまだ新しい緑色の落ち葉が数枚ほど居座っていた。  
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