第4章 トンネルの中のくらげ -2-

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  ゆっくり動き出した車両の中でふと、浅葱が辺りをきょろきょろ見回している事に気付いた。 こんな寂れた路線の車両内に広告を出す会社も無いし、特に目を引くようなものも無い筈なんだけど、妙にキラキラと澄んだ瞳で吊り革へ手を伸ばしてみたり、座席の淵に触れてみたり、もしかして、 「浅葱、まさかとは思うけど、電車に乗るの初めてか?」 「あ、う、うん。電車もだけど、町の外に出るの、初めてかも……」 「えぇっ!? ぎっちょん!?」 〇 空凪駅は街の中心よりも少し北西の方に位置していて、上り電車はそこから南東へ街を横切り、山を貫くトンネルへと続いている。 三丁目を南北に貫く河川と踏切が、窓の外を高速で流れて行く。ドップラー効果で変調したように音を変える踏切警報機の音を右から左へ聞き流しながら、俺は身体を強張らせ、この席に座った事を若干ながら後悔し始めていた。  
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