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「彼女って面倒くさいね」
一通りの流れをあっちゃんに話すと、波うつような形をしたタルトのはじにフォークを差した。
「なんだそれ」
「だって、前はもっと楽しかったもん」
大学時代の大悟はもっと身なりにも気を遣ってて、あんなに髪の毛が”くたー”ってしてなかったし。
もっとお洒落で気が利いて……それに、私にあんな重い荷物なんか持たせたりしなかったもん。
「なるほどね」
「なになに? なんか分かった?」
顎に手を添えた直後に閃いたような言葉を発したあっちゃんに、ピョンと横にはねた自分の髪の毛を押さえるとそのまま耳にかけた。
「ヒナの彼氏になる男は、そのお嬢様級の我が儘に耐えなきゃいけないんだな」
「……」
お嬢様級って。
「ホラ、冷めるぞ」
言いたいことだけ言ってクスクス笑い終えると、カチャンとカップを洗い始める”あっちゃん”。
私がそんな愛称で呼んでいるこの人の名前は、石原敦也(いしはらあつや)。
この喫茶店のオーナーで、私とは一回りも年の離れた幼馴染だ。
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