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鬼の世界は、
相変わらず乾いて閑散としている。
心がズキンと痛む。
この場所に戻る度に、
今の世界がどれほど
ボクに優しい時間なのかを自覚させられる。
咲久と咲に出逢い、
二人はボクに居場所をくれた。
桜の季節から梅雨の今日まで、
ボクが咲と咲久と共に住み始めて、三か月。
どれだけ遅く自宅に帰っても、
台所のテーブルには、
咲の手料理でもある晩御飯が並べられている。
鬼として、桜鬼としてのみ
現在を生き続けてきたあの時代には、
望むことのできなかった幸福が
今、ボクの目の前には広がっている。
心は穏やかに
満たされている……はず……。
なのにどうしてだろう。
今もボクの心は乱されていく。
全てを諦めていたボクが、
今以上に求め続ける何か……。
咲をボクだけの元に
縛りつづけたい。
黒い影が
ボクを包み込んでいく。
その影の正体を
ボクは知ってる。
独占欲と
言う名の魔物。
ボクの中に
魔物が棲みついていく。
ただ静かに咲と咲久と共に過ごす
鬼が求めるには幸福すぎる時間を、
今は……一日でも長く続けていたいだけ。
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