10人が本棚に入れています
本棚に追加
季節は流れて、
あの日……桜に誘われて和鬼を見つけて
一年が流れた。
一年後、こんな風に
和鬼との時間を過ごしてるなんて
想像もできなかった時間。
春祭りの二日後、
和鬼と共に鬼の世界から帰ってきた私は、
私とお祖父ちゃんの家を由岐和喜の自宅とした。
戸籍上は、由岐和喜としての自宅。
だけど私の中では、
和鬼の家のつもり。
和鬼は、この世界に戻ってきて
YUKIとしての活動を開始した。
今は事務所の方針で、
休息兼2ndアルバムの制作期間中ってことなんだけど
スタジオに籠ってる時間が多くて、
不規則と擦れ違いの時間が続いてた。
一つ屋根の下に暮らし始めても、
和鬼を独占することなんて出来やしない。
寂しいと思う気持ちを
紛れさせてくれるのは、司との時間。
学校生活、テニス、そして昨年から始めた箏。
そして和鬼を家族だと言うことを
自分にも自覚させるかの様に、
毎日、毎食作り続ける和鬼の為の手料理。
*
私だけの和鬼でいて欲しい。
もう置き去りにされるのも、
捨てられるのも怖すぎるから。
*
和鬼に限って、
そんなことは絶対にしないって
思えるはずなのに、
捨てられる恐怖感が拭いきれない。
信じたいのに信じきれない私が
情けなくて大嫌い。
こんなにも弱い私は嫌いだよ。
「咲、何してるの?
もっと集中しなさい。
ボールコントロールを的確に。
さっきのボールは、
もっとちゃんとしたコースが狙えたはずよ」
伊集院先輩の声が、
放課後のテニスコートに響く。
「すいません。
もう一球お願いします」
すかさず気持ちを切り変えて
目の前のボールへと意識を集中させる。
コートを囲んで球拾い中の、
新一年生たちの視線が集まってくるのを感じる。
ボールがトスされて打ち込まれてくるのを
落下地点を予測しながら、先に回り込んでバウンドと共に
一気に打ち返す。
その時に、コートの端から端までに気を配り
確実に抜けるコースへとボールをコントロールする。
前方より構えている二人に対して、
コートギリギリに打ち返す。
「咲先輩、リターンエースだ」
新一年生の声があがる中、
次々と放たれていくサーブを
相手が打ち返せない死角に向かって
打ち込んでいく。
最初のコメントを投稿しよう!