1.優しい時間 

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「お疲れ様です。  YUKIさん」 新曲のレコーディングスタジオ、 歌入れを終えて、出てきたボクを演奏を手伝ってくれた 事務所の仲間たちが陣中見舞いよろしく迎えてくれた。 「お疲れ様、YUKI」 「有難うございます。  有香」 「お礼は私じゃなくて、YUKIの世界をずっと支えてくれる  事務所の皆にね。  託実【たくみ】、祈【いのり】、TOMO、魁【かい】  忙しいのに時間作って貰えて有難う」 ボクの変わりに、優秀なボクのマネージャーは 事務所仲間たちにお礼を告げる。 Ansyal【アンシャル】の プロデューサー兼ベースの託実くん。 そして同じくAnsyalのギターリストで祈くん。 もう一人のギターリストは、 Ishimael【イシマエル】の魁くん。 最後にドラムを手伝ってくれたのは、 kreuz【クロイツ】のドラム兼ピアノのTOMO君。 どの仲間たちも今の事務所を支えるボクの新しい仲間たち。 「YUKIさん、有香さん。  宝珠【ほうじゅ】お姉さまや高臣お兄様にも伝えますが、  私が手掛けているkreuzのTOMOにまで  お声掛けいただきまして有難うございます」 そう言ってボクと有香に丁寧にお辞儀をするのは、 トパーズとクリスタルのインディーズ部門を預かる、 十六夜グループの十六夜鷹花【いざよい ようか】さん。 鷹花さんがボクたちに挨拶をすると、 すかさず、TOMO君もお辞儀をした。 「YUKI、何時ものお店を予約してあるから  今日は打ち上げでいいわよね。  咲ちゃんにも伝えておいたわよ」 有香はそう言うと、 キビキビと準備の為に動き始める。 春祭りの翌日、 生番組の収録中、声を失って失踪したように世間で 騒がれてしまったボク。 実際のところは、 失踪なんてものではなく、 鬼と人の狭間、咲と咲鬼の狭間で視えるべき世界が 視えなくなってしまって声を失った。 自分を見失ったボクを 狭間の世界まで飛び込んで助けてくれた咲。 咲が傍にいるから、 ボクは今もこの世界に存在することが出来る。 * 咲がいれば、それでいい。 ボクには、 もうYUKIである必要はないから……。 * 人の世に戻った後、真っ先にYUKIとしても 咲を守りやすいように、弱まっていた人の記憶を 強固なものにするため、鬼の力で操った。 だけど……すぐには、 事務所にも有香にも連絡することが出来なかった。
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