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たくさんの場所を巡らなくても、ゆっくり歩きたい。 私の希望で市原さんは時間の流れを遅くしてくれてるみたいだった。 「こんな風にしてると…何だか現実離れしてんな」 「…ホント。同じ一日とは思えませんね。…なんて、今頃いつもの感じで働いてる人もいるんですよね」 「だよな。今回はかなり強引にお前連れて来たからな。後がこえ―よ」 「…平気。ちゃんとカラダで返すから」 「その言い方は…エロいな」 「…じゃなくて、ホント、帰ったらまた、頑張れそうだから」 その時、私のバッグの中から小さな振動が伝わる。 バッグを探ってスマホを取り出すと表示はディレクターの滝川さん。 「あ、噂をすれば」 私はその表示を笑いながら市原さんに見せると電話を受けた。 「はい、稲森です」
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