わたしは、天の者にゲコゲコする。

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ぱっと開いたままの天の涙を遮る円。円の中心に集まる形で伸びた一本の茎を握って。膨れて丸く、淡くて濃い葉の上を歌声と共に渡るのが今となれば、そんなもので日課。 「ゲコゲコ、ゲコゲコゲ、わぶ」 大きく滑らかな葉には水滴が落ちていて、葉の先端に飛び乗ったとすれば、激突した。巨大な天粒を手で崩して通り抜け。濡れた顔を振って歌声を軽やかに囁く。 草木の森から葉の森に来たのは、そりゃあうん、理由なくして来なくはないもの。そんなもので日頃から葉の森を渡って、へっこらぴょんとんぜえはあ動いてる。 「ゲコー」 両手に抱えた天の涙を遮る円。上を拝めば、泣いていない。泣いていたら出歩かない。当たれば冷たいし、動けない。泣いていたら悲しくて、出歩けない。日課は、久々だった。とても遠くに跳ねるのも吝かではない。 「ゲっコゲコー、ゲっコゲコー」 葉の森は、泣き止んでも天粒が多くて葉に乗るつど転がる。だったら天の涙を遮る円で迎え打ち破るしかない。天粒を華麗に反らして、大きな葉の上を進んで、そうだと思って、来た道を向き直る。天が泣いた日に葉の森にいたら、景色を眺めるのもまた、日課。 「ゲコゲコー」 若葉色、深緑、草色、彼草色、緑に緑に緑。天粒が転がる。天粒が乗っかる。天粒が光。天粒が天の笑顔で煌めいて。とろけた葉の森にとろけそう。ああっと、日課日課。 忘れそうになった。日課がある。思い出して葉の森を軽快に飛び抜ける。葉の森を抜けると次は聳えに聳えた天柱。古くてぼこっとした場所が足場だ。天の涙を遮る円を脇に置き、一つ高く天柱に向かって跳ねる。突き出た角に片手を引っ掻けぶら下がる。 よっこらせっせとやれやれゲコゲコ。日課は吝かではない。高くて天を見上げても先端が知れない天柱は、天に続く道だと思う。へっこらぴょんとんぜえはあ動きに登り。天も満面の笑みになる頃、日課は後少しで終わりそうになる。 天柱から見える、大きくて、黒い髪をした天の者。天の世は白くて広くて、とろけそう。天柱に登るのは日課だ。前の日の天の涙で足が滑りそうだ。気を付けよう。
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