第1章

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翔子は暗闇のなかにいた。何がなんだか分からなかった。 「どうして、こんなことに。何がどうなっているの?」 翔子は泣きそうになりながら、冷静に考えてみた。 野口翔子は24歳の会社員。午後6時にいつもの仕事を終え、のんびりと帰宅している最中だった。帰宅途中、ふとどこかショッピングセンターにでも寄ってみようかと思った。思えば、それが間違いのはじまりかもしれない。ショッピングセンターへと方向転換した瞬間から、記憶がないのに気づいたからだ。私は襲われたのだろうか? でも、体や衣服をみてもその気配はない。はたまた、誰かに拉致されたのだろうか? それにしては周りに誰もいないし、手足も拘束されておらず、その線も考えきれない。では、一体、何が考えられるのだろう? そのような中、アナウンスが流れた。 「みなさん、準備はいいでしょうか。あと十分でゲームを開始します。後悔のないようしっかり、準備していてください。」 「繰り返します。みなさん、準備はいいでしょうか。あと十分でゲームを開始します。後悔のないようしっかり、準備していてください。」 翔子は、さらにわけがわからなくなり混乱した。泣いてしまいたいくらいだった。 裕福な家庭に産まれた翔子は、父親、母親の愛情をしっかり感じながら、すくすくと育っていった。もちろん、裕福な家庭なうえ、一人娘だったので、その愛情は半端なく、金銭に関しても、不自由ないくらい翔子は親から小遣いとしても得ていた。成人してからも、一般の人が給与として得ている平均以上の額である。なので、翔子は働く必要などまったくなかった。 普通は、このような環境だとお高くとまったり、とてもわがままだったりというケースをよく聞くが、翔子に至ってはまったくそれはない。翔子は、自分ことをそう思っていた。 翔子はお高くとまることもなく、むしろ、友達想いであり、虫ひとつ殺せないような性格である。そして、気遣いもでき、友達想いだけでなく、困っている人は放っておけないという性格に関しては欠点らしいものはひとつもなかったのだ。翔子は自分のことを、そう思いこんでいた。ただ、思い込みは裏を返せば、欠点だらけになってしまうということは当の本人、翔子はまったく気付いてもいなかった。そこにつけこみ、利用するまったく真逆の性格の人間がいることを気付いていなかったのである。
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