一章

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 東側に下るカバンサイト河に太陽の光が反射する。河には船が浮かんで人々の日常を助けていた。船は鉄という塊でできている。アリシャは船を眺めるのが好きだった。どうやって河を走るのか構造まではしらなかったが。  マルテア城下と隣国ブルートを繋ぐカクタス橋には、商人の荷馬車が行き来する。カクタス橋はマルテアにとり、生命線に等しかった。  アリシャの乗った馬車は、カクタス橋を通りすぎてマルテア城の城門を潜り抜ける。  城のロータリーに馬車を停めたキラクは、アリシャとクロウから離れて詰所へ報告に出向いた。  アリシャは着物の袖に着いた汚れを気にする。盗賊の返り血だ。洗って取れる訳でもない。汚れのことを諦めたアリシャは城内に入り、自室に足を向ける。 「クロウ、晩餐一緒にするでしょう?」 「いや。俺は部屋に居るよ。あとでパンでも運んでくれ」  クロウはアリシャの数歩後ろを歩いていた。二階へ続く階段は二人でならんで歩ける広さだ。 「遠慮しなくていいのよ?」 「朝も軽食でいい」 「食べないともたないよ。今日だってかなりの量を動き回ってたんだから」 「公務と同じだよ。朝から晩までお茶だ。砂糖菓子並べられる地獄を見たことあるか?」 「紅茶も菓子も見たくはないようね?」 「席に居ると飯のあとまで茶会だろ。俺は疲れたの」 「本当に我が儘」 「飽きるだろ。茶会。話題なんか政やら金の話で民の話なんか誰もしない。あれだけ退屈で暇で重圧な時間はない」  マルテア城の二階に伸びる廊下に二人の足音は響いている。  メイドと執事が部屋の掃除をする手を止めて、二人に深々と頭を下げた。
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