一章

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 キラク・ハイネがアリシャ・マルテアに使えて十五年になる。  アリシャが五歳の時から生活を共にしてきた。六歳の時、父親が戦死して城に引き取られている。母親は南にいる。父親は、金を稼ぎにマルテア国へと赴任していた。そため、キラクは父親の死期、母親に資金を送っている。  周囲に生い立ちを語ることが殆ど無いために、今を持ってアリシャの付き添い人と認識されている。  キラクの仕事は三年前より、自警団も兼用になった。  アリシャがクロウと婚約をしたことで、キラクのお守りからアリシャを卒業させようと、国王がキラクを自警団に任命したのだ。  キラクは役職が代わったことに不平も文句もない。  日常を楽しむ領域で、アリシャとクロウを連れて盗賊や荒くれ者の制裁に当たる。  仕事にアリシャを巻き込んでいることを周囲は知らない。巷では遊び人の娼婦と連れが盗賊を騙しては罠に掛けていることになっていた。  アリシャは止めろと言って止める娘では無かったし、婚約者はアリシャに夢中だ。  正直、目に見えて危うい二人を引き離す術をキラクは考えるだけ無駄と判断していた。  キラクとて正義感だけは一人前のアリシャを嫌いにはなれない。できるならクロウと結婚してマルテア国を離れて幸せに暮らして欲しいと願うほどであった。  死ぬ思いでもしなければアリシャは何も止めない。明日も盗賊狩りをすると言っていた。  街道沿い。裏門の先にあるクォーツ街道のことだろう。
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