一章

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 時間になると教会には八人の仲間が集まる。夕飯がわりの酒とパンとチーズが配られて燭台の蝋燭が僅かにテーブルを照らした。 「始めましょうか」  女が、言った。美声であった。名前はプラチナ。本名ではない。周りがそう呼ぶだけの話だ。会合が始まれば布を取る。この教会のシスターだ。琥珀色の瞳の美しさは街でも評判である。最低限の情報だ。なぜ会合に参加するのかも謎だ。然り気無く烏色の髪を掬う。情報を知っていても知らない振りが原則。それが会合の一番の規約だ。  キラクも布を取る。眼鏡をかけ直す。眼鏡をつけた上に布を掛けるのはつらいので、会合には外してくる。  会合は集まった人々が顔を知っていればいい。  プラチナを中心に、時計回りに八人が座る。  ダイア、パール、アメジスト、ルビー、ムーン、サルファー。 「トパーズ。貴方も暇な部類なのね」  アメジストがキラクにパンを回す。緑色の眼差しが色めき立つ。琥珀色をした髪の先が、丸まっている。彼女の髪の毛は癖毛であった。この会では年長者だ。彼女に歳の話は禁忌だった。何処かで会ったような気がしたが思い出せない。キラクはいつもアメジストの存在を街で探している。忘れることができないのだから仕方ない。魅力的な女性であることは間違いなかった。 「貴女ほどではありませんよ。いただきます」  キラクに回されたパンは硬い。マルテア国で優雅なのは貴族だけで民は貧窮と背中合わせだ。どこかの大陸では、富と財を欲しいままに扱う姫が居るとある貿易商人から聞いたが、マルテア国とは全く正反対の国であることは確かだ。
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