一章

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 正確には、古に罪を犯した魔法使いがいる。閉じ込められた魔法使いは悲しみの余りに自らを魔物に変えた。  会合に来た人間もブレイブの伝説を唱える学者も真実を知らない。キラクも文献で知り得た知識だ。  キラクは、その魔法使いの子孫だ。四歳の時に実家の倉庫で見つけた文献に記してあったのだ。文字を覚えたばかりのキラクでも解るように魔法が架けられていたのだ。  魔法使いは恋も愛も知らずにブレイブにいる。彼等が目撃する動物たちは魔法使い達の生き残りが魔物へと貢ぎ物を渡している光景だ。  この場にはキラクの他に魔法使いの素性を隠している人物が居る。  キラクは、酒を白葡萄酒を口にする。マルテア国は赤葡萄よりも白葡萄が盛んに作られている。晩餐には白葡萄酒が欠かせない。白葡萄は比較的肌寒い地域でできる。夏もそれほど暑くはない。マルテア国は年がら年中、春のような場所だった。葡萄酒を飲むことは十五歳で解禁される。酔うも酔わないも個人が見極めて飲むことを徹底している。白葡萄酒は有り余っているのだ。キラクは赤葡萄酒を思い浮かべる。アリシャが一度だけ買ってきたのだ。あのときの赤葡萄酒はとても絶品であった。三年年前の話だ。雪も降らない冬だった気がする。 「ブレイブの平面図がほしいな」  ダイアがムーンに書物を渡す。キラクが白葡萄酒に舌鼓を打っていたときだった。
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