一章

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 2 朝が来るとアリシャは城を脱け出す。それが愛する男の腕のなかであったとしてもだ。  クロウの乱れた髪を掬い、口許に笑みを浮かべる。よく寝ている。アリシャはそれだけを確認した。  クロウとは、今年で三年目の付き合いになる。  出会いはスラム街だ。子供相手にむきになっていたのを思い出す。言い合いになって喧嘩した。子供達が大慌てでキラクを呼んできた。なんとかクロウを抑えた次の日、いきなり城に乗り込んできて告白された。なんの冗談かと思っていたがそれからずっと通いつめられた。アリシャも最初は戸惑った。それでもクロウの真っ直ぐ過ぎる気持ちが嬉しかった。身体を重ねることに時間はかからなかったし、嫌でもなかった。断ったのは最初の一度だけであとはクロウに流された。それを義務とは感じなかった。指輪は食事の席で渡された。繁華街にある酒場だった。驚いた。返事ができなかった。今でもアリシャは覚えている。  果てて眠っているクロウからは殺気など感じることはない。隣国の第一王子のくせに公務などそっちのけでアリシャの側に居る。アリシャが嫁になると言うまではこの生活を続けるというクロウにアリシャはとことん呆れていた。
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