一章

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「殺しちゃおうか?」  クロウの返事は分かりやすい。治安など統率されているようで統率などされていない。矛盾した世界で平和を信じるには難しいことだった。アリシャはクロウを抱き締めてそれを止めた。 「別れたいならどうぞ」  アートとリックが死んだら国は自分に回ってくる。王妃になどなるわけにはいかない。アリシャはいつも貴族や王を嫌った。クロウは笑うだけだ。夕べもそうだ。今はぐっすり寝ている。  アリシャは、寝台を降りた。篭に入った衣服を取り出して広げる。  盗賊から奪う衣服はこの土地のものではない。隣国より遥かに遠くから運ばれた服だ。アリシャは衣服に使われている絹がお気に入りであった。麻よりも手触りが良く、ドレスよりも着やすく出来ている。  近年、盗賊が商人を襲い、積み荷を強奪する行為が目立っていた。  マルテア国に輸入品が入らなくなり、国の景気も傾いている。  輸出ばかりでは国が成り立たないこともあって、アリシャは十六のときに盗賊退治に乗り出した。  意外なことに反対すると思っていたキラクが手伝いを買ってくれている。アリシャはキラクとクロウの三人で北から順に盗賊を制圧してきた。  今日はクォーツ街道だ。難所であることもあって下調べに時間がかかってしまった。今日の夜には終わらせてしまいたい一件だ。
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