一章

25/42
前へ
/136ページ
次へ
 そんなことを考えながらアリシャは絹で織り込まれた着物を羽織る。帯の巻き方がわからなかったが着物がずり落ちなければいいのだろう。ドレスを留めるリボンのように帯を結い上げる。  懐中時計を袖に仕込んで、アリシャは城を脱け出した。  ハーキマの森までは馬を使う。朝方の街に馬の足音を軽快に響かせる。  毎朝、太陽が登る直前は民も外に出ない。  アリシャが見たこともない服を着ているから誰もアリシャだとは思わない。  着物の帯が風に靡いている。空は快晴だ。馬は、ハーキマの森を見据える。  カバンサイト河が太陽光に反射する。船で寝ている水夫を横目に馬は通り過ぎた。  ハーキマの森に入り、何時もの大木によじ登る。がアリシャが乗っても折れそうにない太い枝だ。枝の後ろに赤のリボンが垂れ下がる。太い枝に腰掛ける先にブレイブが臨む。  アリシャは子守唄を謡う。  魔物は夜に活動していることをアリシャは疑わない。  子守唄は母から教わった。歌は苦手な母だが子守唄だけは何故か上手い。アリシャを寝かせるたびに謡われた子守唄だ。  届いているのだろうかとアリシャは時々ブレイブの高峰を見詰める。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加