序幕

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 今まで叩かれたことなどなかったアリシャは、その場にうずくまった。 「姫様。ここへ近寄ってはならないとあれほど言い聞かせたでしょう?」  キラクの冷たい声にアリシャは自然と涙目になる。 「泣いても無駄ですよ。嘘も吐かれたようですし」 「ごめんなさい。怒らないで!」  アリシャは泣きながら男を見上げた。  キラクの馬の尻尾みたいに結い上げられている黒髪が揺れる。眼鏡越しに銀の眼差しが睨んでいた。キラクはブレイブのように背が高い。異性ということもあって、時々、上から見下ろされるのが子供心に怖かった。  アリシャは身を縮ませる。小突かれた頭を押さえて、踞る。  キラクも屈んでアリシャの顔を掌で包んだ。然り気無く頬を摘ままれ、アリシャは涙を浮かべたままでキラクを見る。  キラクの顔は、涙で滲んで歪んだ。
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