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ブレイブの頂上は雲に隠れて見えはしない。枝の上は心地好い。樹齢も五十年といわれる太い幹。アリシャは魔物に問い続ける。
「―――」
大きく深呼吸して吸い込む空気は、空の胃袋を膨らませていく。
アリシャが見つけたこの場所は、いつの間にかひとりの時間を紡げる場所に変貌していた。
誰もいない。ひとりだけの基地だ。アリシャは基地から森を見渡す。朝の風と光が木々の間から降っている。葉が風に揺れた。朝露がきらきらと輝く。アリシャは足を揺らした。視線の先にあるブレイブの蔦も光っていた。
子守唄を謡い終えたアリシャは、地面に降りる。
枝から降りたアリシャは着物を整える。年を経つに連れて体力もついている。地面と離れた場所でも飛び降りることが可能になった。飛び降りることを教えてくれた旅人は、アリシャが十六の時に旅立ってそれきりだ。枝にぶら下がり、手を離す。着地は足裏をきっちりと着ける。アリシャは練習したのだ。練習に練習を重ねて、できるようになったのだ。
「いつか怪我をしますよ」
アリシャは声に振り替える。
「キラク。どうしたの、その顔」
アリシャは、キラクの顔に引っ掻き傷を見つけた。
「野良猫にやられました」
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