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「これから、巡回よね」
アリシャは懐中時計を取り出した。朝の六時だ。街は動き出している。キラクと巡回をしながら帰ることで、誰かにに見付かったときの言い訳になる。
「はい。スラムを回って、城に戻ります。そうですね。八時には着きますよ」
「私も連れていって?」
「畏まりました。お姫様」
キラクの言葉に苦笑う。民の前ではこうだから呆れる。
「なんだか他人みたい」
「他人ですから」
アリシャはキラクに振り向いた。引っ掻き傷が痛々しい。キラクの言葉も寂しかった。
アリシャは馬を繋いでいた幹から手綱を外す。栗色の毛並みが美しい馬が、嘶いた。
キラクも馬を使ったようだ。樹木を二本離した場所で愛用の黒い馬が身震いしている。美しい毛並みだ。手入れも行き届いている。キラクが馬に跨がった。アリシャも馬に乗る。
「スラムへは何時もの通りを行きます」
「オーケ。イレブン通りを真っ直ぐね」
二頭の馬が森を駆けた。森の狭い道は商人の馬車が漸く通れるかどうかだ。
キラクを先導にアリシャは馬の速度を保つ。
横切る風がアリシャの髪を靡かせた。
馬を走らせながら本日の予定を思い返す。クォーツ街道へは午後に出向けばいい。
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