一章

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 確か執事のウラッドが淡々と午前は茶会だと相手の説明をしていた。  巡回を終えたら朝食を取り、茶会に出向いて昼になれば丁度いい。  イレブン通りを馬で走る頃には、六時半を過ぎていた。  直線を突っ切り右へと馬の軌道を反らす。  路地に馬を置いて、スラム街に入る。朝にも関わらず日陰が多い。イレブン通りよりも道幅が狭く、左右には民家の裏手が建ち並ぶ。  貧困した民が肩を寄せ合う危険地帯だ。右も左も塵が溢れている。スラム街の奥へ行けば行くほど沈黙した通路に足音が響くだけだった。  路地の先にはカンバザイト河が流れている。生活用水が流込んで河は綺麗とは言えない。汚染問題を受けて、水路を強化し、水の洗浄地を作ったが効果は遅い。風に流れてくる酷い臭いも慣れてしまえば何時もと変わらずだ。鼻が麻痺し、感覚を失う。河を囲んで生活する民は皆、そういう。  アリシャは壁に背中を預ける民を一瞥する。民は職を探したが住居がないというだけで労働できる環境にない。アリシャは姉のアートに何度も申し立てた。その改革は役所でやってはいたが、全てに及ばない。紹介した人間が犯罪を起こすことが多く、信用できる者が優先的に職を得る。
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