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昨日から、佐竹さんに代わって坂下厳汰さんが僕の送り迎えをしてくれている。
「厳汰さん、佐竹さんは仕事は何日くらいかかるの?」
「自分にもわからないッス。若にしばらく代われって言われただけで」
「そうなんだ」
「スイマセン。何にも聞いてなくて」
あまりに厳汰が恐縮するのでかわいそうになった。
「そうだよね。ごめん、言いにくいこと聞いちゃって」
「いいです。でも雪兎さん気を付けてくださいね」
「ありがとう。じゃあ行ってきます」
会社の目の前に停車してくれるのであとは入ってしまえば安心。
やっぱり虎太郎は厄介なことに巻き込まれてるんだ。
これ以上聴いても、答えは返ってこないのはわかっている。
『雷文の嫁』として、極道の世界ではかなり有名な存在らしいから、虎太郎の迷惑にだけはならないように注意しなければ。
その頃、会社でもおかしなことが起きていた。藤堂社長の反物の発注の量が半端なく多いのだ。いい品を厳選してきたはずなのに、数が足りずに品の悪いものまでかき集めている状態。
その大量の品の検品を任されて、この頃残業が増えている。
質に合わせて値段を決めていく。明らかに品物の質が落ちた。
「社長。この頃、品物の質が落ちています。何か理由があるのですか?」
「今度、展示会を開くのでね。数が必要なんだ」
「でも、この質では駿河屋ののれんに傷がつきますよ」
「君もなかなか言うようになったね。入って何か月目だったかな?」
「確かに入社して短いですが、品物は何回も見させていただいてます。質ぐらいわかりますよ」
「上質なものを、限られた客だけに売っていたら会社経営は成り立たない。安いものを大量に売って、名前を知られてなんぼの世界だ」
「駿河屋はそんな商売じゃなかったでしょ?」
「死んだ先代みたいな口をきくんだね。新入社員の君が出過ぎた口をきくんじゃない。社長は私だ。『雷文の嫁』だからって会社での序列をわきまえたまえ」
もうそれ以上は言えない。専務も部長もイエスマンだし、社長のトップダウンで方針が決まる小さな会社だ。
『雷文の嫁』の看板を翳しているつもりはなかったけど、そうとられても仕方がない。
社長が新入社員に意見されることなど普通ならあり得ないことなんだから。
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