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「こんにちは、斎藤(さいとう)くん」
○しばらく目をつぶっていると、聞き慣れた看護師さんの声が聞こえた。
○僕はまぶたを開け、体を起こした。片手に写真が触れて、悟られまいとしてそれを素早く棚に立て直すと、彼女へ体を向けた。
「こんにちは、城崎(きのさき)さん。またサボり?」
「いつも私は真面目で勤勉よ。また時間が空いたから来たの」
○彼女はしばしば、時間が空いたと理由をつけては僕の病室にやって来る。そしてたわいない雑談をして帰っていく。正直なんのために、僕に会いに来ているのか分からない。
○訳が分からなくて、口調も思わず皮肉が混じってしまう。
「で、今日はなにをしに来たの?」
「なにって、もうすぐ斎藤くんも退院だなぁと思って」
○城崎さんはナース服のポケットからチョコレート菓子を取り出すと、その一つを僕に渡してきた。
「いつも思うけど、患者に病院食以外のものを食べさせても大丈夫なの?」
「斎藤くんは、別に消化器系の疾患にかかってないでしょ」
○こんなに軽い感じで菓子を与える看護師がいていいのだろうか。
「学校、心配だったりする?」
○彼女はベッドの側にあった背もたれのない椅子に座りながら訊いてくる。
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