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紫陽花
蝸 牛
紫陽花の葉の先、
家を背負つて歩く其の蝸牛は
何とも哀れな自分の後ろ姿。
如何ともし難い、焦躁に襲はれ、
私が私で無くなる。
そんな気にさせておき乍ら
此れが精一杯の速度なのだ。
目ま苦しく變はる世の
地面を這ふやうに
目立たぬやうに唯呼吸を繰り返す。
そんな姿を情けない、と笑はれようとも
其れが眞の自身であるなら
認める他進む道は無いのだ。
其れは重く肩に壓し掛かり、
足枷を附けられた囚人のやうに
ひつそりと、唯ひつそりと。
命盡きるまで續く罪の重さに
いつ其のこと身を投げ出し度くなるのだ。
其処の葉先から水溜りに飛び込めば、
ポチャンと音も立てずに
此の重荷から解放される。
其れか、鹽でも掛けて呉れたなら、
跡形も無く消えるだらうか。
そんな私をナンセンスと揶揄するだらうか。
天はそんな事もお構ひ無しに、
今日も憂ひの雨を地に降らせる。
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