第1章

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31歳になったヨウは行きつけの食堂に立ち寄った。 「へい、らっしゃい」 大きな声が店内に響く。もう、数年も通っているお店なので、ヨウとお店の主人は、気軽に世間話をする仲になっていた。 「おやっさん、いつものやつお願いできる?」 「はいよ、待っててね! しばらく、立つとヨウがいつもこのお店で食べるカレーが出てきた。 「へい、お待ち!ヨウさんしっかり食べなされ!」 ヨウはカレーが大好きだった。一日三食ともカレーを食べているわけではないが、必ず三食のうち一食はカレーを食べていた。行きつけのお店のボリューム満点のカレー、レトルトカレー、ヨウみずからこしらえる手作りヨウ自家製カレー、そのどれもが好きだった。友達には冗談で 「カレー大好きヨウさんとは俺のことだぜ!」 と言うくらいであった。本人はうけねらいで言うことはあるが、苦笑いするやつもいれば、冷めたようなつめたい目線を浴びせられることはあるが、そんなことは気にしなかった。 そして、カレーといえばお水といいたいところだが、ヨウにとってはカレーといえば牛乳だった。まあ、これもたまに冷たい目線で見られることはあるが、人には好みというものがあり、これは他人から強制されるものではない。なので、ヨウはこれも「カレー大好きヨウさん」発言と同様に、気にとめることはない。これを気にしたからといって、何か良いことがあるわけでもなかろうから尚更だ。 「おやっさん、ごっそさん」 ヨウがそう言い、お金を出すと 「いつもありがとさん! ただ、ヨウさん、あんたはいい人なんだから、あんまやりすぎるんでないよ!」 「うん、ありがとう。おやっさん、また来るね」 そう言い、ヨウは店を出た。 おやっさんは奥さんと一緒に食堂を切り盛りしている。こじんまりしたところだが、固定客も多く、ほどよい程度に客もいる。この食堂はとてもアットホームで、居心地がいい。何より、おやっさんは声も大きく、おしゃべりで愛想がいい。普通、このようなタイプの人ならただ単におしゃべり好きなのだが、おやっさんは違う。いや、おしゃべり好きなのに変わりはないが、気遣いができると表現したほうが正しい。このお店にヨウが通い出したときのある出来事でそれにヨウ自身も気づいた。
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