第1章

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ヨウがこのお店の常連客になり始めのころ、何の理由だったか忘れたが、ヨウがすごく落ち込んでいるときがあった。そして、このときもいつものようにカレーと牛乳を注文した。 「へい、お待ち!」 目の前に出されたカレーはいつもより、明らかに量が多かった。 「おやっさん、いつもより量多いんじゃ?」 「ヨウさん、元気ないからさ。でも、体調が悪いってわけじゃなさそうだし。こんなときこそ、しっかり食べなよ。精神的に落ち込んでいるときだからこそ、しっかり食べなあいかんよ。」 ヨウは何気ないその気遣いがとても嬉しかった。落ち込んでいて、全部食べれるか心配だったが、おやっさんの気持ちを考え、しっかり食べた。まあ、少々、食べ過ぎて気分が悪くなってしまったのを覚えているが、おやっさんの気持ち、気遣いを考えるとうれしいかぎりであった。 「おやっさん、ごっそさん。また来ます。」 と言い、店を出ようとしたとき、 「ヨウさん、何があったか分からないけど、元気出さんと。力になれるかわからんけど、言いたいこと言ってスッキリするなら、いつでも相談にのるから。」 そのおやっさんの一言がとても嬉しかった。ヨウはそのおやっさんの言葉をしっかりと受け取り、店を出た。 それから数年、このおやっさんのお店に通っているが、おやっさんの接客をみていると、元気のない客がいると、おやっさんはヨウにしたようにその客を気遣って接しているようだった。 常連客になり、おやっさんとは数年来のつきあいになるが、おやっさんはヨウの職業や生い立ちなどプライベートは一切聞いてこなかった。しかし、お客をみて元気があるかどうか、落ち込んでいるかどうかをすぐに見極められるだけあって、気遣いだけでなく、勘も鋭い。それだけに、ヨウがどのような仕事をしているかは、おやっさんはうっすらと感づいているようだった。
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