第1章

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「さて、今日はどうしようか」 ヨウは、そう考えながらケータイのネットを見ながら、手頃な会社をリストアップしはじめた。 詐欺のパターンにも色々ある。まず、代表的なのはオレオレ詐欺。最近では、オレオレ詐欺に引っ掛かる人はそうもいないが、結果としてその詐欺が原型となり、にたような詐欺はいくつもある。しかし、ここ一年ぐらいだろうか。電話での会話をするまえに、相手が受話器を取ると同時に 「録音を開始します」 というアナウンスが流れ、電話の内容を設定いらずに録音できるタイプが普及してきている。とくに、ターゲットであった高齢者のお宅には、詐欺防止にも一役買っているとみられ、うかつにオレオレ詐欺と似たようなことはできない。警察がその気になれば、その録音から足がついてしまうこともざらではない。なので、以前はこのような詐欺もしていたヨウだったが、ここ最近は別の種類の詐欺で一儲けさせてもらっている。それは投資家を装った詐欺である。 投資や株といった分野は、ヨウにとって専門ではない。そもそも高校も普通科卒業で、専門学校や大学も行かなかったから、専門分野などありはしないのだが、強いていうなら詐欺全般の専門である。まあ、自慢できるものではないので、それは人には言わず、というか人には言えずなのだが。それはさておき、ヨウが投資家になりすしまし、詐欺を行う手順は次のとおりだ。 まず、狙うのは大企業ではなく、中小企業だ。大企業ならそのような投資の話はすでにあるだろうし、もしかすると社長自身が投資に対して相当な知識があると予想できる。もしくは、それ相応の専門家、担当の社員が会社に常駐していると考えられる。そうなると、多少の知識を得て投資家もどきとして参上するヨウではたちうちできない。たちうちできたとしても、良くてどうにか専門家の予想の裏をかいた視点で意表をつくぐらいしかできないだろう。それだけで、投資家詐欺が成功する確率は低い。なので、中小企業、そして中小企業といっても全国系列ではなく、名前は売れているが、二、三店舗ぐらいの系列店しかない企業が投資の話は都合がいい。それゆえ、中小企業をターゲットにしているのである。そして、ヨウはようやく、めぼしい企業のリストアップを終え、行動にうつすことにした。
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