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◆◇◆
<王都オーディン>
「将軍閣下! 奴隷軍がついに王都にまで侵入しました!」
兵士の一人が転がり込み、膝間付く。
その報告を白銀の鎧を纏った青年・シリウスは、目を閉じて聞いていた。
「‥‥わかった。君達は下がっていろ」
「は‥‥?」
「奴とは、私が決着をつける」
驚いた様子の兵士を、シリウスは穏やかな笑顔で見つめる。
「‥‥国王陛下を頼む」
遠くに聞こえる足音が迫ってくる。
鎧兜を身に纏ったような重い音ではない。彼等はそんな重装備は使わない。
奴隷軍は凄まじく強かった。
重労働で鍛え上げられた身体。高い士気。そして何より――――
「‥‥久しいな、シリウス」
この男の存在。
先陣をきって現れた、奴隷軍筆頭。
「レックス‥‥」
「尻尾を巻いて逃げたかと思ったぞ。イクスベルグにもアイゼンフォールにも姿を現さなかったからな‥‥」
イクスベルグにアイゼンフォール。どちらも王国の誇る大都市だ。
それを奴隷軍は一週間で落とし、ここまでやって来たのだ。
それを率いたのがこの褐色肌に銀髪の青年、レックス。
かつてはシリウスと共に動いていた時期もあった。だが、彼は変わった。
女神シエルを目覚めさせる為の器に、レックスの妹の身体が使われたのがきっかけだ。
そして弟の血と魂が、女神シエルの魂を下界へと導くための贄だった。
女神シエルに信仰心を持つ過激派が起こした事件がきっかけで、レックスの憎悪の心に火がついた。
それから彼はシリウスと袂を別ち、王国の奴隷商人を殺して回り、あっという間に奴隷軍を立ち上げたのだ。
「‥‥コールは一緒じゃないのか」
「別行動だ。オーディンは確実に落とす。そのために作戦は練ってきた」
「‥‥そうか。なら気を遣う必要もないな」
「そして‥‥お前をここで討つ覚悟も決めてきた」
レックスは漆黒の剣を突き付けた。
吸い込まれそうな程に艶やかな黒の剣。
レックスはこの剣を引き抜いた時、人間の域を超えた力を手にした。
「覚悟ならこちらもできている。国王陛下には指一本触れさせない!」
「この俺に勝てるとは思わないことだ。今の俺は‥‥すべてを穿つ破壊の力を手にしたのだからな!」
「俺には女神シエルの力がある! このシリウス・ミラ・アルクフォード‥‥今ここでお前を討つ!」
「望むところだっ!!」
◆◇◆
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