序章:《神話》

3/4
前へ
/15ページ
次へ
◆◇◆ <王都オーディン>  「将軍閣下! 奴隷軍がついに王都にまで侵入しました!」  兵士の一人が転がり込み、膝間付く。  その報告を白銀の鎧を纏った青年・シリウスは、目を閉じて聞いていた。  「‥‥わかった。君達は下がっていろ」  「は‥‥?」  「奴とは、私が決着をつける」  驚いた様子の兵士を、シリウスは穏やかな笑顔で見つめる。  「‥‥国王陛下を頼む」  遠くに聞こえる足音が迫ってくる。  鎧兜を身に纏ったような重い音ではない。彼等はそんな重装備は使わない。  奴隷軍は凄まじく強かった。  重労働で鍛え上げられた身体。高い士気。そして何より――――  「‥‥久しいな、シリウス」  この男の存在。  先陣をきって現れた、奴隷軍筆頭。  「レックス‥‥」  「尻尾を巻いて逃げたかと思ったぞ。イクスベルグにもアイゼンフォールにも姿を現さなかったからな‥‥」  イクスベルグにアイゼンフォール。どちらも王国の誇る大都市だ。  それを奴隷軍は一週間で落とし、ここまでやって来たのだ。  それを率いたのがこの褐色肌に銀髪の青年、レックス。  かつてはシリウスと共に動いていた時期もあった。だが、彼は変わった。  女神シエルを目覚めさせる為の器に、レックスの妹の身体が使われたのがきっかけだ。  そして弟の血と魂が、女神シエルの魂を下界へと導くための贄だった。  女神シエルに信仰心を持つ過激派が起こした事件がきっかけで、レックスの憎悪の心に火がついた。  それから彼はシリウスと袂を別ち、王国の奴隷商人を殺して回り、あっという間に奴隷軍を立ち上げたのだ。  「‥‥コールは一緒じゃないのか」  「別行動だ。オーディンは確実に落とす。そのために作戦は練ってきた」  「‥‥そうか。なら気を遣う必要もないな」  「そして‥‥お前をここで討つ覚悟も決めてきた」  レックスは漆黒の剣を突き付けた。  吸い込まれそうな程に艶やかな黒の剣。  レックスはこの剣を引き抜いた時、人間の域を超えた力を手にした。  「覚悟ならこちらもできている。国王陛下には指一本触れさせない!」  「この俺に勝てるとは思わないことだ。今の俺は‥‥すべてを穿つ破壊の力を手にしたのだからな!」  「俺には女神シエルの力がある! このシリウス・ミラ・アルクフォード‥‥今ここでお前を討つ!」  「望むところだっ!!」 ◆◇◆
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加