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アツシはリンが言っていたことを思い出した。
「私は「籠の鳥」よ。主人が歌えと言えば綺麗な声で囀る。ただそれだけ…」
リンの言葉はそう言う意味だったのか。アツシは今更になって、彼女の苦しみを知った気がした。
アツシは男に向かい合う。
『今までありがとう』
『お前変わったな』
アツシは黙って頷いた。
自分を変えてくれたのはリンだ。彼女と出会わなければ、自分は今生きていられたかも分からない。
アツシは酒場を出るとカジノに向かった。リンの行方を追うことはやめようと思っていた。だがそう思っていても足が勝手にカジノに向かう。
一目でいい、彼女の姿を見たい。その衝動を抑えることができなかった。
アツシはカジノに行くとバーに向かった。まだ飲むには早い時間。でも店はラウンジとして開いていた。
アツシがカウンターに座るとマスターが声を掛けてきた。
『ご注文は?』
『コーヒーを』
『かしこまりました』
マスターの淹れてくれたコーヒーを飲みながら話を振ってみた。
『ここで歌を歌っている人がいるって聞いたんだけど…』
『リンかい?彼女の歌は素晴らしかったよ。でももうやめたみたいだね』
『やめた』
マスターの言葉にアツシは肩を落とした。
『彼女にはいろいろ事情があってね。ほら、あそこの紳士が彼女のパトロンだったんだ』
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