第三章

9/11
前へ
/61ページ
次へ
アツシはリンが言っていたことを思い出した。 「私は「籠の鳥」よ。主人が歌えと言えば綺麗な声で囀る。ただそれだけ…」 リンの言葉はそう言う意味だったのか。アツシは今更になって、彼女の苦しみを知った気がした。 アツシは男に向かい合う。 『今までありがとう』 『お前変わったな』 アツシは黙って頷いた。 自分を変えてくれたのはリンだ。彼女と出会わなければ、自分は今生きていられたかも分からない。 アツシは酒場を出るとカジノに向かった。リンの行方を追うことはやめようと思っていた。だがそう思っていても足が勝手にカジノに向かう。 一目でいい、彼女の姿を見たい。その衝動を抑えることができなかった。 アツシはカジノに行くとバーに向かった。まだ飲むには早い時間。でも店はラウンジとして開いていた。 アツシがカウンターに座るとマスターが声を掛けてきた。 『ご注文は?』 『コーヒーを』 『かしこまりました』 マスターの淹れてくれたコーヒーを飲みながら話を振ってみた。 『ここで歌を歌っている人がいるって聞いたんだけど…』 『リンかい?彼女の歌は素晴らしかったよ。でももうやめたみたいだね』 『やめた』 マスターの言葉にアツシは肩を落とした。 『彼女にはいろいろ事情があってね。ほら、あそこの紳士が彼女のパトロンだったんだ』
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加