第三章

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『こんなことをお願いするのは申し訳ないのだけれど、良かったらミサの時ピアノを弾いてくれないかしら?今までピアノを演奏してくれていた人が病気になってしまって、困っていたのよ』 『俺みたいな男が教会でピアノを弾いていいんですか?』 アツシの言葉にシスターは声を上げて笑った。 『ピアノは正直なの。あなたのピアノの音はとても綺麗だった。心が綺麗な証拠ですよ』 アツシはシスターの言葉に照れ笑いを浮かべた。 リンが消えてから笑えなくなっていたのに、このシスターといると自然に笑うことができている。久しぶりにピアノを弾いたからだろうか。 『いつでもピアノを弾きに来てちょうだい』 シスターはそう言うとアツシのために祈ってくれた。シスターの言葉に甘え、アツシは幾度となく教会に訪れた。 そして初めてのミサの日、アツシのピアノを聴いた大勢の人がアツシに拍手を送った。 讃美歌を歌う子供たちもアツシに駆け寄ってきた。 『おじさんのピアノすごく綺麗だった』 そう言って笑う小さな女の子。その子の頭をアツシは優しく撫でてやった。
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