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丘からは町が一望できた。その町はとても活気が有るようには見えず、皆が皆疲れている。不意にマーガレットが声をかける。
「この町…いえ、この国はどうですか?」
その問いかけに悠が答える。
「酒場は明るかったな。無理にでも明るくしようとしていた」
「そうですか…」
マーガレットは町のある方向を指差す。
「あそこは貧民街だったんですよ。今ではこう呼ばれています。極貧民街と」
変えられることの無いヒエラルキー。産まれたときから運命は決められている。悠の世界の縮図。
悠は胸の奥が疼くのを感じた。それは何に対してなのか悠にも分からない。
「私はこの国を変えたかった。お父様の語っていた国を作りたかった!! でも、結局お父様の復讐に駆られていたのかも知れません」
その言葉にノエルの顔に沈痛の色が浮かぶ、恐らくマーガレットも同じ顔をしているだろう。
「でも、もう決めました。復讐でも構わない。偽善でも構わない。私は王を倒し、革命を起こします」
それは自らの感情と向き合い、自分の中のエゴさえ乗り越えた言葉。すでに表情は決意を秘めている。
悠にはそれが眩しかった。自分は感情に囚われ、殻に閉じ籠った。今のマーガレットの姿は悠には眩しすぎる。
「ですが、私一人では到底無理です。ノエル。手伝ってもらえますか?」
その言葉にノエルは膝を付き頭を垂れる。
「姫殿下の仰せのままに」
ノエルの忠誠心は当の昔にマーガレットへと捧げている。
今さら忠誠を問われるのは愚問だ。
その姿を悠は眺める。主従の絆。生まれも境遇も全く異なるにも関わらずその絆は何より深い。
偽りの絆を求める、現代よりも尊い姿悠の頭に飛び込んでくる。
その時悠の頭にはメールの文章が甦る。
『君はこの世界をゴミだと思っている』
全くもってその通りだ。世界はゴミだ。
少なくとも俺の世界は。
だが、この世界は? もしかしたら俺の時代と変わらないのかも知れない。でも、
「賭ける価値はあるか…」
悠は唇を吊り上げる。彼は世界に期待している。初めて人間を面白いと思った。
「マーガレット。いや、姫様」
その言葉にノエルとマーガレットが悠を見る。悠は確かな声で告げた。
「俺もこの革命に一枚噛ませてくれ」
マーガレットは驚き、目を丸くしていたが、柔らかく微笑み頷く。
ここに風見悠の盤上競技が幕を開いた。
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