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「親父!! つまみ一つ!!」
酒場に入った悠は店主のような男に声をかける。理由は簡単。強面だからだ。
「あいよ。なんだ、兄ちゃんこの辺じゃ見ない顔だな」
その言葉に悠はほっとする。言葉が通じなかったら野垂れ死に確定だった。
「そうなんだよ。俺さ旅人なんだけどこの国の事よく知らないんだよね。教えてくんね?」
酒場の親父は不審に思う様子も無く、人の良い笑顔を浮かべて、
「ああ。良いぜ。この国の名前はクラミナってんだ。知ってたか?」
当然悠が異世界の国名など、知るはずもないが、
「ああ。聞いたことくらいはあるかな」
嘘をつく。異世界人だと主張したところでそれを証明できるものは無い。ならば、当たり障りの無い嘘をついた方が良い。そんな判断だった。
「そうかい…。んじゃ、この国が圧政で有名になっちまったってことか」
聞いてもない情報を教えてくれる親父にしめしめと思いながら、悠はさらに話を聞く。
まとめるとこうだ。
○二年前に国王が変わった。
○現王は圧政をひき、民衆を苦しめている。
○前王の一人娘が居るらしいが今はどこにいるのか分からない。
こんなところだ。
聞きたい情報は大体分かった悠は席を立つ。
「お勘定」
「あいよ。15ペソスだ」
「ペソス…?」
そこで改めてここは異世界だと理解すると同時に有る危機感が生まれる。
そう、悠は一文無しで、異世界の酒場で食事してしまったことになる。
嫌な汗が悠の頬を濡らした。
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