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さて、とある日のこと。
今日も森で剣術修行にいそしんでいるといつものとおり、見学者が現れた。
一番頻繁に訪れてくれるガルバンさんだ。ここしばらくは来てなかったけど。
ガルバンさんは足が悪く、冒険には向いていない。だけどそれでも接近戦での技量はすごいらしく、また人徳もあるので警備員たちのとりまとめとして雇われている。
「よお坊主! やってるか?」
「あ、はいこんにちは。ガルバンさん。休憩ですか?」
「まあ、休憩っちゃ休憩なんだがな。
今日はお別れを言いに来た」
「えっ? それってどういう……」
「いやな、ちょっとここの所、足の調子が悪くてな。
満足に歩くのも辛いぐらいだ。
それでな、俺なんかじゃ警護の役には立たないって……」
「ロンバルト様が? まさか!?」
「いや、あの人は引きとめてくれたさ。
兵士たちのまとめ役だけでも十分な額をくれるってな。
これまでどおりに務めてくれと言ってくださった。
だが、それじゃあ俺の心が収まらねえ。
俺から申し出たんだよ」
「じゃあ、これからはどうするんですか?」
「なに、気軽な一人身生活だ。なにをしてだって生きていけるさ。
これまで、十分な報酬を貰ってきたから蓄えも充分だしな。
そういうわけで、ルート。
今日でお別れなんだ。
突然ですまんがそういうことだ」
言いながら、ガルバンさんは地面に二つの円を描いた。持っていた木刀で。
「なんですか? それ?」
と聞くと、
「ああ、餞別がわりだ。
ルートが稽古しているのは、ジャルツザッハだったよな?」
「ええ」
「今では田舎剣法とか揶揄されて、まともに取り組む奴は少ない。
というかほとんどいねえが、あの英雄ハルバリデュスのパーティーメンバーの一人。
大剣士ジャルツザッハが考案したいわば生ける伝説ともいっていい剣術だ。
基本の5行、切り下ろし、横払い、切り上げ、巻き打ち、突貫。それも一振りだけではない。角度や出所を変えた太刀筋すべてを含めて5行と称す。
さらにそこから派生する数多くのバリエーション。
昔は無敵を誇っていた時期もあった。
まあ、使い手に恵まれなかったのと、初歩の段階では実戦向きではないから廃れていってしまってるがな」
「?」
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