わりと剣術

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「明日には居なくなる俺のためだと思って、全力でやってくれ。  どうにもな、剣を置くには俺はまだ若すぎる。  だが、体がついてこないのも事実だ。  その辺のな、葛藤をな、お前なら解消してくれるんじゃないかっていう勝手な思い付きだ。  なに、心配はするな。お前の実力は誰にも話さねえよ。  最後の頼みだと思って受けてくれ」  そうまで言われて断われるはずはない。  俺は木刀を携えて、もう一方の円へと足を踏み入れた。 「しばらくろくに運動してねえ。  初めは軽くで頼むぜ!」  言いながら、ガルバンさんは俺に斬りかかってくる。  もちろん実力者同士。まともに当てることはしない。寸止めがルール。  だが、それ以上の気迫を感じる。  木刀と木刀が打ち合わされる音がこだまする。  序盤で攻勢に立つのはガルバンさんだ。  俺は防御に徹する。  ガルバンさんの振るう剣を払い、弾き返す。  ガルバンさんの準備運動代わりに、守勢に回る。  小さな円の中とはいえ、俺のほうは両足を半歩、いや軽く一歩ずつぐらいなら動かせる。  だが、ガルバンさんは軸足はほとんど動かないようだ。  右足は、棒のように地面に固定。  左足のステップだけで器用に間合いを調整している。  それに、上半身の動き。確かに、足が悪くてもそこらの剣士とは比べ物にならない強さだ。  なのに、自ら剣を置くなんて。  ふいに寂しさがこみ上げる。だが、俺は邪念を捨てようと努力した。  ガルバンさんがわざわざ指名してくれたんだ。  俺も出来る限りの力で応えなければ。  しばらく打ち合って気づいた。ガルバンさんもまだまだ本気じゃない。  俺の力を試している。  初めはジャルツザッハの5行を俺に使わせる。そのための剣筋。  5行から15行へ。  そして、225行……。
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