第1章

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 クラサスティス邸のあったグヌーヴァを出てしばらくはまだ街道も整備されておらず、専属の馬車と護衛を雇っての旅だった。  さすが辺境というだけあって、危険を伴う行程だった。  幸いにして何もトラブルは無かったけど。護衛の発する剣気のおかげかな?    ついさっきまで滞在していたナルソスという村は小さな村だけど、とても活気付いていた。  建設ラッシュ、バブルの典型とでもいうべきか。  それというのも、ちょうど数ヶ月前にマーソンフィールの王都マーフィルへと続く街道が整備されたのだ。  街道の整備とは、単に地面を整備して馬車を走りやすくすることだけを指すのではない。  道に沿って魔物の侵入を防ぐ結界が張られることを意味する。  要は街道に沿って旅をしている限りは、よほどのことが無い限り魔物に襲われることはない。  インフラが整ったという奴である。高速道路とか新幹線の駅が開通した時の田舎町の状況によく似ている。  それまで、冒険者やクラサスティス伯爵家のような辺境の貴族、それと旅の商人ぐらいしか通らなかった小さな街や村に、一気に一般庶民が流入する。  小さな村にはまず乗り合い馬車の発着場が出来た。  護衛込みでの馬車の旅ともなると、費用も高く、庶民では手が出ない金額になってしまう。  あえて、高い金を払って危険な旅を行うのは、それ相応の事情のあるものだけなのだ。  俺たちのこの旅の前半がそうであったように。  もしくは、よほどの道楽家か、自分探しをするどこか頭の痛い若者か。  だが、結界によって魔物からの危険を回避できる街道が出来たとなれば話が変わる。  元々治安のいい国だ。往来が増えれば、追いはぎの類も姿を現しにくい。  最小限の護衛で――あるいは乗客に冒険者が居ればその者が護衛を兼ねる――安価に旅が出来る乗り合い馬車は、庶民の味方。  物珍しさに新規路線の開通直後は、利用客がどっと増える。
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