第1章

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 ナルソス村はそんな状況の中で、如何にしてリピーターを増やすかを模索していた。  このバブルの勢いを持続させるために。  オーソドックスで素朴な伝統料理や取ってつけたような民族衣装での歓迎セレモニー。 なんだか前衛的なダンスが披露されていた。  一風変わったみやげ物。全然、村の特色とは関係ない色っぽいお姉さんが接客してくれる酒場――もちろん俺達はそんなところには行っていない――。  一番の売りは温泉だった。これは、おいしい。俺たちも――というかポーラさんが特に――温泉を気に入って、数日間滞在した。    そもそも、ナルソス村までは、専用に雇った馬車にて最短に近い移動だった。  ここから先は、社会見聞を兼ねてゆっくりと王都へ向かう予定になっているらしい。  居候で旅費からなにから全て負担してもらっている俺には知らされていなかったが。  道理で入学試験の日取りから逆算して考えると余裕を持ちすぎた出発であったわけだ。 「……だからね……、ポーラ。  次からは、馬車も普通の乗り合い馬車に乗りましょうよ。  速度だってそんなに変わらないんだし、値段はずっと安いでしょ?  それに、いろんな人と出会う機会が増えるじゃない?」  アリシアの演説はまだ続いていた。  ナルソス村で調達したのは、貴族などが使う乗り合いではない、いわばリムジン的な馬車だった。  いや、リムジンとはそもそも元来は馬車の形式を指すんだから、そのままリムジンでいいんだっけ?  高いけど、その分乗り心地もよく、相乗りじゃないので他人に気を使うことも無い。  御者のサービスも必要以上。  食事から何からセットで費用に含まれる。もちろんその分値段が張る。  次の中継の街までは、2日の行程。乗合馬車であれば、その間の食事は自分で用意しなければならず、寝るのは馬車の座席。あるいは野営。  だけどリムジンなら、なんと座席がベッドにもなるし寝具もふかふかなのが提供される。安い毛布とは段違い。  そんな高待遇は望まないというアリシアの意見に俺は賛同した。意思表示はしなかったけど。
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